蝶か蛾か?~境界線上の種を巡って(その1) [他の昆虫 / Other insects]
蝶か蛾か?~境界線上の種を巡って(その1)
「蝶と蛾の違いって何ですか?」とは、一番多く訊かれる質問である。大抵は「どちらも鱗翅目という仲間で、決定的な違いって実は無いんです」と答えるほかないのだが、それで納得してもらえる人は多くない。当会会員でもあるアメリカ在住の白岩氏は、氏のホームページで以下のように明快な紹介をしているので、まずはこちらを参照されたい。
ぷてろんワールド「蝶と蛾の違い」
この中にも紹介されているが、蝶と蛾の区別点として有用なものに、「翅棘」(しきょく)または「翅刺」というトゲのような器官がある。これは前翅と後翅を連結させるもので、後翅の付け根から飛び出したトゲが、前翅の付け根の「保帯」と呼ばれる部分に収納される構造となっている。これはほとんどの蛾に特有の器官である。
ところが例外はあるもので、蝶の中で唯一、この器官を持つ種類がオーストラリアに分布している。特異な斑紋が美しいラッフルズセセリ(Euschemon rafflesia)である。本種について、当会会誌No.23で吉本浩氏が解説をしているので参照されたい。
▲ラッフルズセセリ原色図(Butterflies No.23)
さて、蝶と蛾を巡る区別点としてもうひとつ分かりやすいのが触角の形状であろう。棍棒状になるのが蝶であることが多く、蛾では先が尖っていたり、櫛状になっていたりする。今度は蛾の中で、触角が棍棒状になるものはいないかと探してみると、カストニア(Castoniidae)科という特異なグループが目を引く。このグループは主として南米で繁栄しており、多くの美麗種を含み収集家に人気の高い蛾である。この蛾の触角は、まさに蝶のように棍棒状をしている。拡大して仔細に観察すると、差異はあるのかもしれないが、いわゆる蝶の触角と言って誰も疑わない。
カストニア科の蛾は、じつは南米を遠く離れた東南アジアにもTascinaという属が分布している。近年、ベトナムから日本人によって新種も記載されたようだが、東南アジアのこの仲間はどれもたいへんな稀種ぞろいで、ほとんど実物を目にすることができない。以下に示すのは、当会会員の柳下昭氏のコレクションに保管されているもので、インドネシア・タナマサ島で得られたTascina orientalisの♂と思われる個体である。巨大な複眼、退化しているとされる口吻、そして蝶のような棍棒状の触角。どれをとっても、魁偉としか言いようの無い姿をしている。貴重な標本を手に取らせていただき、傾けた時に、高貴な青色の輝きが目を射抜いた。低地の熱帯ジャングルに生息しているとされるが、一体どのような生態なのだろうか。興味は尽きない。(つづく)
▲Tascina orientalis ? male (インドネシア・タナマサ島産:柳下昭コレクション)
▲まるでコムラサキのように強く幻光を放つ
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「蝶と蛾の違いって何ですか?」とは、一番多く訊かれる質問である。大抵は「どちらも鱗翅目という仲間で、決定的な違いって実は無いんです」と答えるほかないのだが、それで納得してもらえる人は多くない。当会会員でもあるアメリカ在住の白岩氏は、氏のホームページで以下のように明快な紹介をしているので、まずはこちらを参照されたい。
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この中にも紹介されているが、蝶と蛾の区別点として有用なものに、「翅棘」(しきょく)または「翅刺」というトゲのような器官がある。これは前翅と後翅を連結させるもので、後翅の付け根から飛び出したトゲが、前翅の付け根の「保帯」と呼ばれる部分に収納される構造となっている。これはほとんどの蛾に特有の器官である。
ところが例外はあるもので、蝶の中で唯一、この器官を持つ種類がオーストラリアに分布している。特異な斑紋が美しいラッフルズセセリ(Euschemon rafflesia)である。本種について、当会会誌No.23で吉本浩氏が解説をしているので参照されたい。
▲ラッフルズセセリ原色図(Butterflies No.23)
さて、蝶と蛾を巡る区別点としてもうひとつ分かりやすいのが触角の形状であろう。棍棒状になるのが蝶であることが多く、蛾では先が尖っていたり、櫛状になっていたりする。今度は蛾の中で、触角が棍棒状になるものはいないかと探してみると、カストニア(Castoniidae)科という特異なグループが目を引く。このグループは主として南米で繁栄しており、多くの美麗種を含み収集家に人気の高い蛾である。この蛾の触角は、まさに蝶のように棍棒状をしている。拡大して仔細に観察すると、差異はあるのかもしれないが、いわゆる蝶の触角と言って誰も疑わない。
カストニア科の蛾は、じつは南米を遠く離れた東南アジアにもTascinaという属が分布している。近年、ベトナムから日本人によって新種も記載されたようだが、東南アジアのこの仲間はどれもたいへんな稀種ぞろいで、ほとんど実物を目にすることができない。以下に示すのは、当会会員の柳下昭氏のコレクションに保管されているもので、インドネシア・タナマサ島で得られたTascina orientalisの♂と思われる個体である。巨大な複眼、退化しているとされる口吻、そして蝶のような棍棒状の触角。どれをとっても、魁偉としか言いようの無い姿をしている。貴重な標本を手に取らせていただき、傾けた時に、高貴な青色の輝きが目を射抜いた。低地の熱帯ジャングルに生息しているとされるが、一体どのような生態なのだろうか。興味は尽きない。(つづく)
▲Tascina orientalis ? male (インドネシア・タナマサ島産:柳下昭コレクション)
▲まるでコムラサキのように強く幻光を放つ
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