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緋色の研究~ヒイロシジミ属について(その1) [世界の蝶 / Butterflies World]

緋色の研究~ヒイロシジミ属について(その1)

 ヒイロシジミ属(Deudorix)は近縁属にトラフシジミ属(Rapala)、イワカワシジミ属(Artipe)、ツヤモントラフシジミ属(Virachola)などを含み、研究者によって分類も差がある。骨太な感じのするシジミチョウの仲間で、多様な種を含み、研究テーマとしては中々興味深い。本属の種を多く所蔵されている会員の柳下昭氏の協力で、以下何回かに分けて本属の紹介をしてみよう。

 まず本属の代表的な種で、国内でも南西諸島で記録されたことのあるヒイロシジミ(Deudorix epijarbas)の多彩な変異について紹介しよう。

Deudorix-1.jpg
▲Sipora島のDeudorix epijarbas

 上に示したのはインドネシア・シポラ島のヒイロシジミである。これらは1月から3月にかけて得られたものであるが、その斑紋構成は特に翅表の緋色斑の発達度合いが大きく異なっている。裏面の波状模様は発達の強弱はあるものの共通している。

Deudorix-2.jpg
▲Bali島のDeudorix epijarbas

 さらに上掲の個体はバリ島で得られたものである。裏面の白色部が大きく発達し、一見すると別種のようにも見える。ところがこの白斑の発達具合は段階的で、同所的に減退するものから図示したように大きく発達するものでさまざまである。

 ここからいつものコレクターC氏と専門家T氏の問答を始めよう。
C:ヒイロシジミですか? 東南アジアで、梢の上でテリトリーを張っているシジミを見つけて、「これは珍品かも知れない」と思って、長竿を用意し、一発で仕留めなければ逃げられると思って、タイミングを計ってネットを一閃。確かな手応えと共に「何だろう」と思ってドキドキハラハラしながら眺めてみると大抵この種なんですよね。いっぺんに「この苦労は何だったんだろう」と思うと、ドッと疲れが込み上げて来ます。
T:でもDeudorix属は非常に奥が深いですヨ。このDeudorix属はアフリカから東南アジアを経てソロモン諸島まで分布しています。台湾やフィリッピン、東南アジアのDeudorixepijarbasを除いて、他の種は珍品が多いですヨ。中には極珍種もたくさんいます。「ヒイロシジミ」と言う割に、裏面がepijarbasと同じでも表面がブルーのものも居るんですよ。
C:表面や裏面がほぼ同じでもいろいろな種が居るのですか?
T:東南アジアだけではepijarbasばかりでしょうね。だけど、ウオーレス線から東側には表面も裏面もepijarbasとほぼ同じ模様でも別種とされるものが沢山居ます。それも同じ場所で4~5種も採れるのです。
C:上で見せてもらいましたが、何かド普通種と言われるepijarbasだけでも別のものに見えて来ますネ。
T:そうなのです。東南アジア各地で得られるepijarbasもよく見ると、裏面の色合いが微妙に異なり、各島で亜種名が付いています。でも同じ色合いのものが別の島々でも得られて、同じ島でも色合いが分かれるものが有りますので、今後誰かがまとめる必要が有ると思います。今回は入門編としてepijarbasの変わったパターンの標本をお見せしました。嫌わないで興味深く見ていただければ面白い事請け合いです。Deudorix属の大変奥は深いですヨ~~。
(つづく)

注記:なお上掲図のSipora島のヒイロシジミ右側の上下の個体はスタウディンガーヒイロシジミ Deudorix staudingeri H. H. Druce, 1895という別種であるという見解もシジミチョウの専門家である当会の関康夫副会長から出されていることを附記しておきたい。柳下氏は所蔵のコレクションを多数検した結果、スタウディンガーヒイロシジミはヒイロシジミと同種であるという立場を示している。名著「ボルネオの蝶」(飛島建設. 1991 なお関氏も共著者である)には、特にスタウディンガーヒイロシジミの♀はヒイロシジミと区別が困難であるという記述もある。今後のさらなる研究に委ねたい。
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