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蝶か蛾か?~境界線上の種を巡って(その2) [他の昆虫 / Other insects]

蝶か蛾か?~境界線上の種を巡って(その2)

 前回に引き続き、蝶なのか、蛾なのか、奇妙な種を紹介したい。今回は割に有名なアリノスシジミを紹介してみよう。「蝶なのか蛾なのか分からない鱗翅目はなんて呼ぶ?」「ガチョウ(蛾蝶)!」なんていうのは下らないギャグにもならないのだが、このアリノスシジミ、実際に英語名では"Moth butterfly"と呼ばれている。
 シジミチョウの仲間では最大種、その奇怪な風貌と生態は自然界の奥深さを学ぶ恰好の材料でもある。本属はインド北部からニューギニアまで広く分布するアリノスシジミ(Liphyra brassolis)と、ニューギニアと周辺離島に僅かに知られるL. castniaL. grandisの3種からなる小さな属である。生態として特筆すべきは幼生期は完全な肉食性を示すことで、ツムギアリという獰猛なアリの巣に入り、その中でアリの幼虫を貪り食って成長するという奇怪な習性を有している。アリからの攻撃を封じるため、幼虫は堅い殻に覆われ、いわば装甲車のような外観を呈している。これを幼虫と言っても、誰も信用しないかもしれない。昨年、当会の大会で発表していただいた青森県の工藤氏のブログに素晴らしい画像が掲載されているので、紹介しておく。

 アリノスシジミの生態(ブログ:青森の蝶)

 そして成長すると、ツムギアリの巣の中でやはり堅い殻に覆われた蛹となる。羽化した後はツムギアリの猛反撃を喰らうようだが、毛のような鱗粉を全身にまとっているため、アリの攻撃を防御でき、悠々と大空に羽ばたいていくようだ。ツムギアリにとっては悪魔のような存在に違いない。

 成虫の風貌や生態もこれまた奇怪そのもの。まずは♀の画像をご覧いただきたい。

L brassolis.jpg
▲アリノスシジミ♀(インドネシア・イリアンジャヤ産:柳下昭コレクション)

 これは目にする機会の少ないインドネシア・イリアンジャヤ産の個体。当会の柳下昭氏のコレクションに所蔵されている巨大な♀である。どうだろうか。太い胴体と奇妙な斑紋。10円玉と比べれば、その巨大さが分かろうというものだ。これでシジミチョウというのだからもう呆れるほかない。

 続いて、柳下氏の秘蔵コレクションの中から、極めて稀な同属の別種グランディスアリノスシジミも紹介しよう。もし本種を持っている方がおられたら、それは称賛に値する大コレクターである。かつてブログ編集子は、バリの出谷裕見氏(出谷氏については以下の記事を参照されたい こちらこちら)に「ニューギニア特産のあの変なアリノスシジミは入荷したことありますか?」と訊いたことがある。哲学者然とした出谷氏は遠くを見るような眼差しで、「今までに1度だけ入荷したことがある」と答えていたように記憶している。その個体が恐らく下記のものであろう。黒くて不気味な斑紋、尖った前翅。やはりアリノスシジミとは明らかに別種のようである。

 L grandis.jpg
▲グランディスアリノスシジミ(インドネシア・ヤーペン島産:柳下昭コレクション)

 アリノスシジミについての生態的な知見は少ないが、日本人採集家によると「夜、食堂の灯火に来ていた」とか、「蛾や甲虫を採集するために夜間採集をしたらライトトラップに飛来した」という報告があるようで、一体お前はホントに蝶なのか?と言いたくもなる。
 残念ながらブログ編集子はまだ生きた本種の姿を見たことがない。いずれ、どこかで出会ってみたいものである。(おわり)
 
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