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再び血塗られた赤紋~ミャンマーのシボリアゲハ [世界の蝶 / Butterflies World]

再び血塗られた赤紋~ミャンマーのシボリアゲハ

わずか2年前のことが、今では遠い遠い昔のようにも思える。その理由は新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で現代社会が根底から揺さぶられる危機的状況にあることもそうだが、それに加えてブログ編集子が大いに胸を痛めていることがある。東南アジアの西の端、ミャンマーの混乱である。

ことし2月に起きた軍のクーデターによる政権奪取から全土での抵抗運動、軍や警察による市民への弾圧で多くの死者が出る事態となっている。今やネットで逐一現地の情報が発信されているのだが、目を背けたくなるような惨状が連日ネット空間に飛び交っている。ミャンマーを何度も訪れた身としては、どうしても無関心ではおれないのだが、そんなある日、見慣れた地名がニュース記事に掲載された。西部チン州の山の上にある町だ。軍と市民との衝突が起き、数人が死傷したという簡素な記事だった。

その町こそ、ヒマラヤの至宝・シボリアゲハ(Bhutanitis lidderdalii)を観察するためにわずか2年前に訪れ、前線基地とした場所だったのだ。1,000 mを超える山の尾根をたどる街道沿いに開けた町で、ミャンマーの山岳地帯ではよく見られる光景だが、大多数のミャンマー人が奉じている仏教の仏塔パゴダに交じって、少数民族が信仰するバプティストの教会が混在するのどかな田舎町だ。町から車で30分も街道をゆけば、やがて雲霧林に到達する。ここからがシボリアゲハの領分だ。モンスーン明けの9月から発生が始まり、生き残りのメスは11月になっても飛んでいる。ちょうど2年前の9月、たまたまオスの発生期に当たった私たち一行は、かなりの数の新鮮なオスを観察することができた。20 mを優に超えるようなキャノピーを優雅に舞うことも多いが、しばしば急斜面に咲くガマズミの仲間の花に訪れ、その鮮やかな赤紋と奇怪な三つ尾は、息を呑むほど美しかった。随分前のことになってしまったが、かつてほぼ同所で撮影したシボリアゲハをYouTubeに公開したことがあり、珍稀さもあってか、かなりのアクセスをいただいた。いずれは高画質で再度撮影して公開したいと願ってきたが、この機会にその宿願を果たすことができた。

Habitat of B. lidderdalii.jpg
▲2,000 mを超す斜面に広がる深い森。ここを優雅にシボリアゲハは舞う(2019年 ミャンマー・チン州)

あれから2年。想像もしなかった夥しい血がミャンマーに流れた。シボリアゲハはブータンでの発見当初から、その姿を求めた探検家やその従者たちがトラに襲われたり、熱病に斃れたり、現地人に襲撃されたりして、翅を彩る赤紋は鮮血の証だと書かれたこともある曰くつきのアゲハチョウでもある。ちょうど発生期を迎えた現地では今頃、ミャンマーの地を染めた市民の血を想起させるような、あの鮮紅色の赤紋をきらめかせながら、優雅に舞っているのだろうか。彼の地に一刻も早く平和が戻ることを願わずにはおれない。平和への願いを込めて、動画を公開することにした。



Bhutan Glory in Myanmar

Bhutan Glory (Bhutanitis lidderdalii) must be one of the most striking swallowtails from all over the world. We can describe it as "the gift from the Himalayas". This magnificent swallowtail appears once in a year from late August to October. The habitat is always deep deciduous forest at above 2,000 m. This butterfly belongs to small genus Bhutanitis, named after a mystic small Himalayan country Bhutan where it was first discovered. The known distribution is Bhutan, NE India, N Myanmar, SW China and Thailand. But sadly the population in Thailand is said to have been extinct due to the destruction of its habitat.

We once uploaded the movie file filmed in 2005 in NW Myanmar. Fortunately we came back same area in 2015 and 2019. We were welcomed with newly emerged males of Bhutan Glory in September, 2019. Here we upload the spectacular film (HD).

Only after one year we visited there, political conflict occurred all over Myanmar. Many people have been brutally killed even in the small town we stayed. Now this butterfly's striking crimson markings of hindwings remind us of the blood of the victims during the conflict. We cannot help hoping that peace will be back soon to that fantastic country. (NW Myanmar, 2019)
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