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【速報】2013年度昆虫DNA研究会第10回研究集会が開催 [雑記 / Miscellaenous notes]

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 先に当ブログで案内した通り、当会学術委員長の矢後勝也氏が世話人を務め、当会関係者も多く参加する以下の研究集会が先週25、26日の両日、東京・文京区の東京大学で開催された。当ブログ編集子は都合で25日しか参加できなかったが、たいへん充実した研究集会であったので、少し紹介しておきたい。

 「昆虫DNA研究会」はもともと大澤省三氏を中心とし、オサムシのミトコンドリアDNAによる系統解析を進めていた「BRHおさむしニュースレター」のグループに触発され、東京大学名誉教授の毛利秀雄先生をはじめとする研究グループが1998年から立ち上げた「蝶類DNA研究会」を母体とするものである。したがって昆虫全般を扱うようになった現在でも、蝶を素材とした研究は多く見られる。

 今回は全部で27の講演のうち、以下の9つが蝶に関するものであった。

「アクベスミヤマ、オオカブト、トリバネアゲハ…巨大昆虫生成機構をめぐる一仮説」
柏原精一(サイエンスライター、科学朝日元編集長)
「蝶類DNA研究会の頃」
毛利秀雄(東京大学・基礎生物学研究所名誉教授)
「ヒメジャノメ属とウラナミジャノメ属の琉球での異所的種分化」
遅沢壮一(東北大)
「サハリンのチョウの分子系統地理-日本の高山チョウのルーツと渡来ルートを求めて-」
宇佐美紀人・上田昇平・中谷貴壽・伊藤建夫・宇佐美真一(信州大)
「韓国産シルビアシジミのWolbachia感染と遺伝的多様性の調査」
坂本佳子・平井規央・矢後勝也(東京大)・石井 実(大阪府大)・李 哲敏(名古屋大学)
「DNA解析による日本のアゲハチョウ類の分布形成の推定」
八木孝司(大阪府立大)
「熱帯アジアのフタオチョウ属Charaxesにおける最近のDNA研究と形態分類 (Lepidoptera: Nymphalidae)」
勝山礼一朗(東京大)
「東洋区のインドシナ亜区-スンダ亜区間におけるチョウ類の種分化とその年代推定」
矢後勝也ほか(東京大)
「台湾産キチョウ2型の季節型反応・寄主選好性・分子系統」
加藤義臣(ICU)・成田聡子(筑波大)・矢田脩(九州大)・Yu-Feng Hsu(台湾師範大)

 どうだろうか。多くが当会の関係者で占められていることがお分かりになるかと思う。いずれもたいへん興味深い講演ばかりであったが、取り急ぎ速報として冒頭の記念講演のひとつ、柏原精一氏の講演を紹介したい。柏原氏は蝶界ではカラスアゲハの仲間の研究で良く知られているが、本業はサイエンスライター、かつて『科学朝日』の編集長も務められていて、生物全般に造詣が深い。柏原氏は近年、甲虫類にも関心を拡げて生物地理学を考察されているが、今回はその中で巨大な体躯を有する種がなぜ生まれたかについての仮説を発表された。きっかけとなったのはヨーロッパに広く生息するミヤマクワガタの一種で、この種のうちの2亜種でトルコやシリアで近接して棲息するものが異常に♂が巨大化することに着目された。柏原氏はこの2亜種は、同じニッチを巡ってあたかも「軍拡競争」のように巨大化する進化を遂げたのではないかと推察した。この仮説はニューギニア地区に生息するトリバネアゲハについても応用できると指摘し、ウマノスズクサを食べる有毒種であるトリバネアゲハは大型化、美麗化することで不利になる点はなく、むしろ餌資源の奪い合いなどが結果として速く成長する大きな幼虫の進化に資するところ大ではなかったかと述べられた。

 柏原氏の講演で特に印象に残ったのは、このような人間の主観的な認識に基づく「仮説」を楽しむ中で、DNA解析を性急に行うことは「カンニング」のようなものだと指摘した点である。とかく万人が納得する「科学的」な答えを急ぎそうになるが、昆虫の標本を並べて地図を拡げ、気ままに空想を愉しむこともまた重要なのではないかと感じ入った次第だった。

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▲熱気あふれる会場
 
 幸い昆虫DNA研究会はアマチュアの昆虫研究家との協働を重要視しているようでもあるし、当会の会員で面白そうなテーマを持っている方がおられれば、専門家とタッグを組むことで、新たな地平が拓けるかもしれない。そんな可能性を感じる良い研究会であった。

 今後、当会でも「DNA解析に生かす標本保存法」や「DNA研究を巡る課題と今後の展望」などについて学術委員会の協力を得てニュースレターやブログで随時紹介したい。

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