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金属光沢の迷宮~ムラサキシジミ属(その2) / Metallic-colored Labyrinth ~ Genus Arhopala and its allies (Part 2) [世界の蝶 / Butterflies World]

 前回の記事に続き、200種類を擁するシジミチョウ科の大所帯ムラサキシジミ属(Genus Arhopala)について紹介したい。絢爛豪華な金属光沢の迷宮に迷い込んでいただければ幸いである。今回は東南アジア大陸部と島嶼部から、それぞれ珍稀種として知られる種をひとつずつ紹介する。

 まず大陸からはコミカムラサキシジミ(Arhopala comica)を紹介したい。本種は東洋産蝶類研究で不滅の業績を残した巨人、de Nicévilleによって、ミャンマー北部カチン州の南端に位置するバモー(Bhamo)近郊のLwe Longという場所(標高5,000ft.=1,500m)で1898年3月12日に得られた1頭をもとに2年後の1900年に記載された。その種小名の由来は以下の原記載の記述に譲りたい。

"This very comical-looking species may be an aberration or "sport," but I am at a loss to conjecture of what species it can be an aberration, more especially as the shape of the tail with its broad base is very aberrant."
(de Nicéville, 1890. Journal of B.M.H.S. 13(1): 170-171)


 この実に珍妙な外見をした蝶は異常型か「突然変異」である可能性もあるが、それではどの種の異常型なのかと推測しようとしても途方に暮れてしまうばかりなのだ。とりわけ基部が太くなる形状を呈した尾状突起は(この仲間としては)実に常軌を逸している。
(de Nicéville, 1890. Journal of B.M.H.S. 13(1): 170-171)


 巨匠de Nicévilleが1頭の奇妙なムラサキシジミを前に苦悩した様子が伺える記述である。現在までにタイプ産地のミャンマーほかインド東北部、タイ、ラオス、ベトナムで得られているようであるが、その数は少ないようで大陸産のムラサキシジミ属の中の珍稀種のひとつといって良い。恐らく割と標高の高い山地の照葉樹林に限って棲息するのだろう。

原記載図と近年ラオスで得られた標本写真を図示しておく。

Arhopala comica Original description.jpg
▲コミカムラサキシジミ(Arhopala comica)の原記載図
Arhopala comica.jpg
▲コミカムラサキシジミ(Arhopala comica)♂ ラオス北部産(所蔵:北九州市立自然史博物館)

 続いて島嶼部からはフィリピン特産の不思議な斑紋をしたムラサキツバメ、ティドンガニムラサキツバメ(Arhopala tindongani)を紹介したい。本種は1990年にフィリピン在住の蝶類研究家として名高いJustin Nuyda氏と、東南アジアのシジミチョウ研究で世界的に知られ、本会編集委員でもある高波雄介氏が共著で記載した。ルソン島北部で得られた個体をもとに記載されたが、ネグロス島からも得られているようである。本種で何より驚くのはその異常な金属光沢斑紋の出方で、♂ではあたかもモザイク状に金緑色斑を呈する。このような奇怪な斑紋の出方をする種は見当たらず、同定は容易である。本種も記載後、まとまって採集されたという話も聞かずかなりの珍稀種のようである。本種については記載者のひとり高波氏の作成したフィリピンのシジミチョウのWEB図鑑にホロタイプの♂の写真と♀の写真も図示されているので次のリンクからご覧いただきたい。

高波・関 フィリピン産シジミチョウのWEB図鑑はこちら (ArhopalaのプレートDに本種が図示されている)

Arhopala tindongani.jpg
▲ティドンガニムラサキツバメ(Arhopala tindongani) ♂ フィリピン・ネグロス島産(所蔵:北九州市立自然史博物館)

 (つづく) 
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