SSブログ

金属光沢の迷宮~ムラサキシジミ属(その1) / Metallic-colored Labyrinth ~ Genus Arhopala and its allies (Part 1) [世界の蝶 / Butterflies World]

 前の記事でムラサキシジミ(Narathura japonica)の動画を紹介した。そこで今回から数回にわたり(連続ではなく、飛び飛びになると思うが)東南アジアを中心に繁栄しているムラサキシジミ属(Genus Arhopala)について紹介したい。ムラサキシジミ属はじつに200種を擁するシジミチョウ科きっての大所帯で、西はインド・ネパールから東はモルッカ・ニューギニアまで主として低地熱帯林に数多くの種類が生息している。

 属の研究については、Bethune-Baker (1903)やCorbet (1941, 1946)が進め、Evans (1957)でその全体像がまとめられた。その後、Eliot(1963, 1978)が追加、修正を行って現在に至っている。分類のキーとして重要な♂交尾器に差異が見いだせないケースも多く、まだまだ研究は途上といってよい。

 青、紫、緑の金属光沢が特徴的な森のシジミチョウで、その多様性ゆえにシジミチョウながら愛好家の人気は高い。しかしひとたび分類の泥沼に足を踏み入れてしまうと、その複雑さ、難解さに頭を悩ませることになる。本稿の表題はそんなムラサキシジミ属の世界を形容してみたものである。

 200種を擁する本属の中でも最大級の大きさを誇るのがヘラクレスムラサキツバメ(Arhopala hercules)である。本種はニューギニア島西部、ハルマヘラ島、スラウェシ島などに分布が知られる。D'Abrera (1971)によれば、本種の幼生期はすでに解明されていて食樹はサガリバナ属(Barringtonia)の一種だという。大きさもさることながら、本種は裏面の特異な斑紋で目を引く。最近ではParsons(1999)などはかつて本種の亜種として記載されたleo(ワイゲオ島、西イリアン)やheraculina(ハルマヘラ島、ワイゲオ島)をそれぞれ独立種として扱っている。♀は翅表に一切青紫色鱗を持たず、茶褐色の地味な装いである。

A. hercules.jpg
▲ヘラクレスムラサキツバメ(西イリアン産)♂ 左:翅表、右:翅裏 [所蔵:進化生物学研究所]

 続いて紹介するのは♂が金緑色に輝くヘレノールミドリムラサキツバメ(Arhopala hellenore)である。ムラサキシジミ属はほとんどの種が翅表に青色、紫色を呈するのが基調であり、緑色の種は少数派である。たとえば関、高波、大塚の大著「ボルネオの蝶 Vol.2, No.1 シジミチョウ科編」(1991)をひもといてみても、じつに93種が図示されているArhopala(近縁属のFlosを含む)の中で、緑色と言える種は、青と緑を双方兼ね備えた美麗種Arhopala caecaを含めてもわずか8種しかない。ちなみに緑色を呈するのは♂のみで、♀が緑色となる種はいないようである。ヘレノールミドリムラサキツバメはこうした少数派の緑色の一種で、アッサムからインドシナ、マレー半島、ボルネオを経て海南島まで割に広く分布する。大陸ではそれほど稀な種ではないようである。温帯林の宝石ゼフィルスに見慣れた日本の愛好家にとっては、熱帯の常緑林の中で思いがけず出会うこの緑色は、慣れ親しんだゼフィルスを思い出させて一種懐かしさを感じるものである。

A. hellenore.jpg
▲ヘレノールミドリムラサキツバメ(タイ東部産)♂ 左:翅表、右:翅裏 [所蔵:進化生物学研究所]

(つづく) 
nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:学問

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:[必須]
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。