基本問題と応用問題~ミスジチョウの幼虫探索 [生態 / Biological note]
▲カエデの枯葉に静止するミスジチョウの越冬幼虫
基本問題と応用問題~ミスジチョウの幼虫探索
日本では蝶類の生態解明は主にアマチュア研究者・愛好家の努力によって戦後急速に進み、現在では生活史がいまだによく分かっていない種類はタッパンルリシジミを除いて存在しないとされる。すでに成熟期、円熟期に入った日本の蝶界において、いわゆる標本の蒐集を志向しない「生態屋」の皆さんはアジアを始めとする国外にその活躍の場を移している。その成果の極致が、五十嵐邁・福田晴夫共著の「アジア産蝶類生活史図鑑Ⅰ、Ⅱ」(東海大学出版会)であり、小岩屋敏著の「ゼフィルス大図鑑」(むし社)であろう。
さて、蝶愛好家は長い冬をどう過ごすのか。冬の楽しみのひとつにミスジチョウの幼虫探索がある。ミスジチョウは北海道から九州にかけての低山帯から山地に広く分布する蝶で、幼虫で冬越しする。幼虫はカエデの葉の葉柄を吐糸で落ちないようにくくりつけ、葉の上に留まって長い冬を過ごす。他の葉は落ちてしまうから、カエデの木に残っている葉を探すと幼虫がついているわけで、発見は割にたやすい。幼虫は愛嬌のある姿でなかなかかわいい。
▲ミスジチョウの越冬幼虫(拡大)
このミスジチョウが属するNeptisは国内に6種類を産するが、国外では中国大陸を中心に80種ほどが記録されている大きな属である。生活史は大陸のものはほとんど分かっていなかったが、小岩屋敏氏をはじめとする日本人の生態研究家たちによって、次々に明かされてきた。その成果の一部は当会会誌でも報告されている。
こうした報告に目を通すと、基本的には探索の方法は日本のミスジチョウと変わらないように思える。たとえ食樹が違っても、枝先に残る怪しい「枯れ葉」に注目するところなどは同じである。それはあたかも日本のミスジチョウという「基本問題」で学んだ手法を、大陸の別種という「応用問題」で試してみるようなものだろう。
日本のお家芸ともいえる蝶の生活史解明、現在ではアジア各国にも研究者、愛好家が育ち始めているので、その先陣争いは熾烈なものとなってきているようだ。
▲中国産ミスジチョウの幼生期(Butterflies (Teinopalpus) No.42より)
▲中国産ミスジチョウの幼生期(Butterflies (Teinopalpus) No.42より)
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