世界の名蝶シリーズ No.5 モンシロモドキセセリ / White Dawnfly (Capila pieridoides)

▲原記載の図、真ん中に王のごとく鎮座する(Moore, 1878; Proc. zool. Soc. Lond. 1878(3): pl. 45, fig. 2)

世界の名蝶シリーズ　その5　白色の貴公子、モンシロモドキセセリ
(Capila pieridoides)

　ブログ編集子の身辺多忙により、このところ更新がすっかり滞ってしまった。当ブログの愛読者にはお詫び申し上げたい。これまでのような頻度での更新は難しくなるかもしれないが、毎日100人を超える読者に来ていただいているので、何とか続けていきたいと思う。（同じようなことを毎回書いているような気もするが）

　割に好評のシリーズ「世界の名蝶」、今回は地味な種の多いセセリチョウの中でも、異色の貴公子を紹介したい。モンシロモドキセセリ(Capila pieridoides)は大陸ではインド北部から中国、マレー半島、ボルネオ島にかけて割に広く分布する種である。大型・稀種の多いオバケセセリ属(Genus Capila)の中でも、とびきりの異彩を放つ姿をしている。♂は白い地色に黒い斑紋、♀は一転して茶褐色の地色に白い斑点となる。なぜ♂がこのようなシロチョウを思わせる色を獲得したのか。じつに興味は尽きない。


▲♂表面（中国産）

▲♂裏面（中国産）

　本種を野外で実際に見た人は多くないと思われる。さまざまな情報を総合すると、棲息地は1,000mから2,000mの原生状態の森林の奥深くに限られるようである。♂は素早く飛び、しばしば湿地や獣糞に訪れるという証言もある。高名な昆虫写真家の海野和男氏はヴェトナムで世界初とも思われる本種の鮮明な生態写真を撮影されているので、まさに驚愕の一言である。

　本種についてもうひとつ気になる記述がある。インドのアッサムで本種を採集した、超A級の採集家Doherty氏は「このチョウの胴体と翅は、ラン科のヴァニラとムラサキ科のヘリオトロープ（キダチルリソウ属）が混ざったような、非常に強い芳香を持つ」と指摘している。また、Corbet & Pendlebury (1992)もHartertの記述を引用し、「ヘリオトロープの花に似た匂いを発する」と記述している。


▲匂いを発する器官なのかと疑われる毛束

　♂の標本を見てみると、特徴的な毛束があることに気づく。残念ながら本個体では匂いは感じ取れなかったが、あるいは吸蜜植物の関係などで強く匂うこともあるのかもしれない。

　大きさ、美しさ、珍稀度、謎めいた生態。いずれをとっても世界の数多のセセリチョウの中でも白眉と言ってよい種だと思う。
　

タグ：蝶 鱗翅目 珍種 セセリチョウ 東南アジア ボルネオ島 中国 アッサム

コメント 2

一昨年の９月、ボルネオ・サラワク州のとある高地にて数日間にわたり本種を目撃した。飛び方はセセリよろしく弾丸の様にと思いきや、大型のせいか超特急ではなくガッシガッシと音を立てるが如く体全体を前後に揺する様に一直線に飛ぶ。ほとんど止まらずネットを振るチャンスないまま徒に時間だけが過ぎ去った。そして今日の夕方には同地を離れるという最終日、フィールドで同行の仁とお喋りしていると目の前３ﾒｰﾄﾙ程先のﾂﾂｼﾞの様な生垣にいきなり止まったではないか！これは最初で最後のチャンスと話し中の同行者のお喋りを制して慎重に網を構え近かずこうと一歩踏み出した時、何かに躓き態勢が一瞬崩れた。その気配で無情にもそいつはあっという間に飛び去ってしまった。その日は蝶影が極端に少なく同行者とお喋り始める前、ウｵークマンで音楽を聴いて暇をもてあましていたのだが、お喋り始める時にｲﾔﾎｰﾝを外し、それをだらしなく垂れ下げていて一歩踏み出した時、自分で踏みつけて躓いたのだ！
気を抜いて油断した自分を責めに責めたが後の祭り。その後昨年４～５月と８月の２度再訪したが一度も姿を見せない。今年も何度かこの白い悪魔を求めてさすらうこととなりそうです。
by PRETTY ANNA (2015-01-06 23:21) 

PRETTY　ANNA　様、コメントありがとうございます。実際にボルネオで本種を実見されたのは貴重なご経験ですね。恐らくボルネオで本種を見たことのある人は数少ないと思います。また確認されたらぜひ教えて下さい。
by BSJ-T (2015-02-01 21:03)