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世界の名蝶シリーズ No.4 アオヒオドシ / Mexican Tortoiseshell (Nymphalis cyanomelas) [世界の蝶 / Butterflies World]

Vanessa cyanomelas.jpg
▲ 原記載の図(Doubleday, [1848]; Gen. diurn. Lep. (1): 201 (Lep.), (1): pl. 26, f. 5)

世界の名蝶シリーズ その4 中米の幻、アオヒオドシ
(Nymphalis cyanomelas)


 ブログ編集子の身辺多忙により、8月の更新がすっかり滞ってしまった。当ブログの愛読者にはお詫び申し上げたい。これまでのような頻度での更新は難しくなるかもしれないが、毎日100人を超える読者に来ていただいているので、何とか続けていきたいと思う。

 さて、創立時からの当会会員で編集委員長も務めた手代木求氏が私的に発行されている「せるば」というミニコミ紙がある。すでに号数は360号を数えるほどに長く続いているが、最近の号に本記事で紹介するアオヒオドシについての記事があった。アオヒオドシについては、かつて本会会誌No.3 (1992)で森下和彦氏も紹介されていた。そこで、今回は本種について改めて紹介したい。

 日本にも分布し、我々にも馴染みの深いヒオドシチョウやキベリタテハ、エルタテハを含むヒオドシチョウ属(Nymphalis)は世界的に見ると6種ほどの小さな属であるが、その分布域はユーラシア大陸と北アメリカ大陸をほぼカバーする広大な分布域を持っている。ちょうど今の時期、北海道から中部地方の山岳地帯で見られるキベリタテハを例にとってみよう。分布域は森下氏の論文に掲載された図を以下に再掲するが、一目瞭然の広大な版図である。

distribution map of Nympahlis spp..jpg
▲ヒオドシチョウ属3種の分布図(実線:キベリタテハ、青い網掛け:エルタテハ、点線&赤い丸:アオヒオドシ)

 日本の感覚ではキベリタテハは山岳のチョウであるが、ヨーロッパやアメリカでは市街地の林でもよく見られる身近なチョウで、しかも北米ではコロラド州の低地やカリフォルニアの海岸線では年に2化、バージニア州ではおそらく年3化もするという。(Scott, 1986) このような広域分布を可能にしている理由として、森下氏は「酷寒と乾燥には非常に強いが高温と多湿の組み合わせを忌み嫌う蝶群」と喝破しているが、卓見であると思う。

 さて、この僅か6種ほどのヒオドシチョウ属の中に、世界的な珍種が含まれていることを知る人は多くない。それが今回の主役、アオヒオドシ(Nymphalis cyanomelas)である。アオヒオドシの分布域は上掲の地図の赤い丸で囲った場所、メキシコ南部からエルサルバドルにかけての狭い地域に限られる。その分布の様は、あたかも広域分布種のキベリタテハの祖先種が特異な地域・気候に特化して種分化し、僅かに生き残ったような感じを抱かせる。

 このアオヒオドシ、記載されたのは1848年と古いのだが、その後得られた数は僅かで、未だに日本に標本があるのかどうかも分からない。そういうわけで残念ながらちゃんと標本を図示できないので、アメリカのサイトへリンクを貼るので、こちらで見て欲しい。この膨大な情報量を誇るサイトでも、本種についての記述はほとんど無く、いかに情報が乏しいかよく分かる。1970年代から80年代にかけて、メキシコ・チアパス州やエルサルバドルで新たに得られたようであるが、最近の記録は見当たらなかった。
 翅全体が青光りするという、この謎のヒオドシチョウを追い求めて中米に行ってみたいものである。

(参考文献)
手代木求, 2013. アオヒオドシに迫る. せるば. 360: 1445-1446
森下和彦, 1992. 世界のヒオドシチョウ属. Butterflies 3: 36-45


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