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横浜にも居た? ゴマシジミ [日本の蝶 / Butterflies JAPAN]

 今ではもう見られなくなってしまった蝶を文献の記録から探すのはなかなか興味深い。今回は神奈川県のゴマシジミについて紹介したい。

 神奈川県のゴマシジミについては、相模の蝶を語る会がまとめた『かながわの蝶』(神奈川新聞社、2000)に標本写真とともに下記のような記述がある。

 箱根山地は、神奈川県では貴重な草地が多かった地域である。その面影は今でも仙石原などに見られるが、以前は広範囲に典型的な火山性草原が残っていた。そのような環境に生息していた蝶たちは、ゴルフ場造成や観光開発によってことごとく消えていった。  (中略)  ゴマシジミも仙石原に記録があったが、戦後はまったく記録がない。(上掲書、58ページ)

 図示された標本はトンボの研究で名高い朝比奈正二郎博士(1913-2010)の採集品で、この個体と、さらに別の2個体が藤岡知夫著『日本産蝶類大図鑑』(講談社、1975)に図示されている。データはすべて同一で、複数個体が採集されたようである。

s-Phengaris teleius Kanagawa UP.jpg
▲神奈川・箱根仙石原産のゴマシジミ[1931年8月24日 朝比奈正二郎・採集] (『かながわの蝶』 p.60より)
Scarce Large Blue (Phengaris teleius) collected in Hakone by Dr. Shojiro ASAHINA [1931-8-24] (after "Butterflies of Kanagawa", 2000)

s-Phengaris teleius Kanagawa UN.jpg
▲同裏面
Ditto, underside

 さて、それではゴマシジミは箱根にしか分布していなかったのか。ブログ編集子の手元に興味深い資料がある。麻布学園生物部の機関紙『テクラ』創刊号(1951)である。オリジナル版はほとんど現存していないと思われる貴重な資料である。私は不完全なコピー版を20年以上前に入手した。この中に石井勉氏による「日吉附近の蝶類」という報告が掲載されている。アゲハチョウ科からセセリチョウ科まで38種類について紹介されているが、この中には何とゴマシジミが含まれているのだ。

s-list-1.jpg
▲「日吉付近の蝶」(『テクラ』創刊号より)
The report on the butterflies of Hiyoshi (after "Thecla" vol. 1, 1951)

s-list-2.jpg
▲ゴマシジミの記述(拡大)
The description of Scarce Large Blue (Phengaris teleius)

Ishii(1951)description on N. fusca.jpg
▲可能性がある種の記述に「クロシジミ」がきちんと含まれている
The Gray-pointed Pierrot (Niphanda fusca) which seems to be confused with Scarce Large Blue (Phengaris teleius) is mentioned in "butterflies can be found"

N. fusca (Kanagawa).jpg
▲神奈川・箱根仙石原産のクロシジミ(『かながわの蝶』 p.59より)
The Gray-pointed Pierrot (Niphanda fusca) collected in Hakone, Kanagawa(after "Butterflies of Kanagawa", 2000)

記述は簡潔で、「ごましじみ 8月頃よりH、F地(編集子注:調査地点の略号)に見られた」というだけである。8月という採集時期を考えても、「(日吉に)いると推定している種」の中に、最も誤同定の恐れが高いクロシジミをきちんと含めている点(上図参照)を加味しても、これは確実な記録なのではないかという気がする。石井氏はご健在なら現在75歳くらいだろうか。直接お会いしてお話を伺う機会は無いかと考えているところである。もし万が一、標本が残っていたら嬉しいのだが。

Old record of Scarce Large Blue (Phengaris teleius) from Yokohama

In Kanagawa Pefecture, Scarce Large Blue (Phengaris teleius) has been known only from Hakone area. The population in Hakone had gone extinct because of development construction of the golf courses or other resort facilities.

The author of this blog has a very precious journal published by Azabu biology club in 1951. It includes the brief report on the butterflies of Hiyoshi, Yokohama area. In this report, Scarce Large Blue (Phengaris teleius) is listed. This record should be precise because other similar Lycaenid species are also listed or mentioned.

The author of this blog wants to meet Mr. Ishii, the author of the report possibly in his middle 70’s to confirm the fact.

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伊豆太郎

自分は若いころ蝶の採集を趣味でしていました
その頃東京周辺の彼方此方へ蝶の採集に出掛けていましたが
クロシジミは国立駅の北側の雑木林周辺に生息していましたね
ゴイシジミ同様に幼虫時代にアブラムシを食して育つ珍しい食虫
昆虫なので興味深々でした。 神奈川県ではそのような場所に
生息していたとは初耳です。 当時は京浜昆虫同好会という名称の
慶応大学生グループが神奈川県の蝶々の採集と生態研究をしていましたが クロシジミの話は聞いたことが有りませんでした。
by 伊豆太郎 (2020-10-21 12:29) 

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